〜炭素鋼の黒染めについて〜


■黒染めとは ■黒染め前の準備
■黒染めの目的とその作用 ■黒染め作業と、その前に
■黒染めに使う薬品 ■黒染め完了後の仕上げ
■黒染め前の仕上げ ■最後に

黒染めとは
 一般的に金属の表面処理として行われ、錆びに対する耐久性を向上させるための処理ですがここではナイフにおけるブレード面やヒルト・ボルスター等の金属素材で作られた個所の表面薬品処理について説明します。
黒染めの目的とその作用
 ナイフの一般的な仕上げ形状であるミラー・ヘアーライン仕上げとは異なり表面を「黒く」仕上げることで甲冑や拳銃のような重厚感などを出すために行う処理です。
 黒染めの作用は金属を化学薬品で黒錆びを発生させる作用です。つまり、金属面を薬品で強制的に腐食(ある種の錆び)させることで黒く染めるわけです。
黒染めに使う薬品
 ナイフショップやガンショップで販売されている「ガンブルー」「スーパーブルー」「ブルーイングペースト」などを使用します。ここでは「スーパーブルー」と「ブルーイングペースト」を使った表面処理について説明します。
黒染め前の仕上げ
 ブレードの仕上げを例にとって説明します。黒染め前の仕上げは黒染めする素材の種類と最終の仕上げをどのようにするかによって異なります。
 黒染めとは金属を腐食させることですのでブレードも当然「痩せます」つまりエッジ部分をあまり薄くしてしまうと黒染めにより「ペラペラ」になってしまいますので通常の仕上げよりも「若干厚め」に仕上げることが肝要となります。これを忘れると使い物にならないナイフが出来あがります。
 また、黒染めさせたくない部分があればそこを透明な塗料でマスキングすることにより黒染めされません。透明なものを使う理由は作業中に塗膜がはがれたり、隙間から黒染め液の浸入があったときにわかるようにするためです。
炭素鋼の準ミラー仕上げ
 エッチング前にブレード面を2000番まで仕上げ青棒でのバフ仕上げまで行います。
炭素鋼のサテン仕上げ
 エッチング前にブレード面を800番まで仕上げます。
黒染め前の準備
 黒染め前の処理には大きな特徴があります。それはブレード全体を酸洗いすることです。この酸洗いを怠るときれいな黒染めは出来ません。
 所定の状態まで仕上げたブレードを酸洗いします。酸は希塩酸が良いでしょう。濃度は5%程度で充分です。酸洗いはエッチング作用が有りますので軽く速やかに行うことが肝要です。酸洗いの後、流水で充分水洗いを行いつやを出したい部分のバフ掛けや、黒染めしたくない部分のマスキングなどを行います。これらの処理後に脱脂処理を行います。
 脱脂には台所洗剤できれいに洗った後に消毒用のアルコールで行います。脱脂後は清浄を保ち指紋にも要注意です。マスキングした場合は塗膜がはがれていないか状態の確認を必ずしておきます。これを怠ると・・・・・結果はわかりますよね。そう、まだら模様の汚いものが出来てしまいます。
黒染め作業と、その前に
 やっと黒染め作業の説明です。でも、もう少しだけ能書きにお付き合い。実際に作業するための用具は?作業場所は?
 準備するものは、
  ● 1500番程度の紙やすり
  ● スポンジ状か消しゴム状の研磨素材
  ● 目の細かい非常に軟らかなワイヤーブラシ
 作業場所は出来ればステンレス製の流しがベスト!つまり、一般家庭では台所です。風呂場や陶器の流しでは間違い無く汚損してしまいます。また、換気も充分に行いマスク・手術用のゴム手袋・保護メガネも用意しましょう。
 さて、準備は整いましたね。では、実際の黒染め作業を行いましょう。黒染め液にはボトルにブラシのついているものとついていないものがありますので事前に確認しておきましょう。ついていない場合は透明な樹脂製のカップと適当な大きさのブラシを用意しておきます。ブラシはシースにオイルを塗るときに使うもので充分です。

 では、黒染め液を塗りましょう。黒染めしたい部分に本当に手早く塗ります。言葉で表現すると「ッサッッ」と言うような早さです。黒染め液を塗るとアッと言う間に黒く変色し、表面にカビか、カサブタのようなものが浮き上がりますがこれで正常です。
 黒染め液を塗ったらすぐに水洗いを行い、表面を紙やすりかスポンジ状か消しゴム状の研磨素材で軽くぬぐうように拭き取ります。強く擦らないように注意が必要です。
 この工程を数回繰り返し塗りむらをなくします。(塗りむらは必ず出ますので心配なく)繰り返し塗ることで塗りむらは目立たなくなります。

 塗り斑が消えたら前述のワイヤーブラシで優しくブラッシングを行います。表面に軽くつやが出てくるまで行いましょう。
 ワイヤーブラシが不安な場合は塗装用具のスチールウールを使用すると安心です。
 ここまでの工程で一応黒染めは完了なのですがさらに深みの有る黒染めが欲しい場合は「ブルーイングペースト」を使います。
 ペーストの塗り方は黒染め液と同様ですが、水洗い後は乾いた布で磨きます。磨けば磨いただけつやが出ますので頑張りましょう。ペーストも好みの黒さが出るまで複数回繰り返します。
 スポンジ状か消しゴム状の研磨素材が本当に便利なので商品名を挙げますと住友3Mの超超細目という「マイクロファイン」と言う名前のスポンジ状の研磨剤がお奨めです。この研磨作業も非常に重要で磨き残しがあると必ずその場所から錆びが発生し後々大変なことになりますので要注意です。
 黒染を安定させ錆びの発生を防ぐために黒染め面に防錆油を塗ります。この作業も非常に重要です。
 油を塗ってすぐに拭き取る。これを1日に数回繰り返す必要があります。早ければ数日で拭き取った布に錆びがついてこなくなりますが長い場合は2週間程度かかる場合もあります。
 おおまかにはここまでで黒染めは完了です。しかしながら鋼材の種類によって黒染めの注意点が有りますのでそれも簡単に説明しましょう。
ニッケルダマスカス鋼
 ニッケルはほとんど腐食されません。このためニッケル部分も腐食した直後は黒く見えていますが実際にはきれいなニッケル面が出ています。必要以上に黒染めすると本当に「痩せる」ので注意が必要です。ニッケルダマスカス鋼の黒染めは短時間で様子を見るようにするのが安全です。また、必要以上に深い黒染めをすると非常に切れ味の悪い刃物となります。これはブレード面の平滑度が悪くなるためです。
炭素鋼同士のダマスカス鋼
 構成する鋼材によって差が出ますが比較的安心して作業が進められます。この鋼材は準ミラー仕上げは無理(ミラーにしたら模様がわからなくなる)なため必然的にサテン仕上げとなります。黒染めすると映えるのもこの鋼材です。
ニッケル合金鋼と炭素鋼のダマスカス鋼
 標準的な黒染め作業です。もし可能ならばこの鋼材から黒染めを試すのが良いでしょう。
ワイヤーケーブルダマスカス鋼及びチェーンダマスカス鋼
 もともとワイヤーケーブルはその素材の時点で熱処理された細い鋼線を組み合わせて出来ている素材です。このため鋼材に鍛造された時点で非常に不均質な金属となっています。が、この不均質さがきれいなウロコ状の模様を見せてくれます。チェーンダマスカス鋼も同様の素材です。この鋼材の黒染めは腐食の進み方が均一ではなく部分的に進行することが多く見られますので短時間の黒染めを複数回繰り返すのが安全でしょう。また「痩せ」も比較的多く出ますので注意が必要です。焼入れの際のオーバーヒートによる鋼材内部の沸きが黒染めにより「ス」となって現れることの多い素材です。きれいな黒染めを行うためには信頼できる焼き入れが重要な鋼材でもあります。
炭素鋼の鍛造品
 ゆっくりと黒染めを楽しんでください。鍛造によって思わぬ模様が現れます。長時間の黒染めを複数回繰り返すのが良いでしょう。でも・・・模様が出るまでの鍛造は本当に大変です。
黒染め完了後の仕上げ
 黒染めはブレード単体の状態で行い、その後組み立てるのが普通です。このため組立作業中に傷がつくとそこだけ黒染め面が削れるため養生は通常のナイフの仕上げと同じように重要です。黒染め面は意外に弱い!
 ここまででおわかりと思いますが黒染めは最終の仕上げ形状です。黒染が安定し錆びの発生を防ぐために前述しましたが防錆油を塗ります。この作業も非常に重要です。
 油を塗ってすぐに拭き取る。これを1日に数回繰り返す必要があります。早ければ数日で拭き取った布に錆びがついてこなくなりますが長い場合は2週間程度かかる場合もあります。
最後に
 ながながと書いてありますがポイントは簡単です。
1.安全第一。
2.事前準備を完全に行う。
3.ブレードの痩せに注意する。
4.薬品で出来た皮膜は完全に除去する。黒染めは錆びである!
 これだけです。最終的には思考錯誤を繰り返し自分の物にしていくのが大切です。